Chuck "Chuck" レビュー 

 デトロイト出身のバンドChuckの2019年のEP”Chuck”はダイヤモンドのような輝きを持つジャズ、ヒップホップ、そしてポップの融合だ。

 

 このEPは5曲入りという短さでありながらバンドとしての才能を感じさせる一枚である。"Flavortown"や"In the Morning"での独特なフロウのラップは粗削りであるが、その点が歌詞に込められた感情を引き立たせているし、ポップで力強くありながら繊細さを残したサビとバランスを取って素晴らしいものになっている。"Mind Over Matter"は前記の2曲でサビを歌っていた人のみがボーカルであり、EPの中でもっともポップソングに近い曲調は彼の歌声のいいショーケースだ。

 

 演奏面もかなりいいものになっている。ジャズインスパイアのベースは目立ちすぎないけれども挟まるリックなどで限りない存在感を保っているし、ドラムもリズム、音ともにいいものになっている。しかし私が一番いいと思ったのは電子ピアノやオルガンを中心においたことだ。ヒップホップでは(まあまあ)ユニークな楽器たちであるが全く違和感を感じさせず、むしろもっと聴きたくなるような音たちだった。特に"Flavortown"のピアノの音は最高である。"In the Morning"のストリングスも美しい。それらが作り出す音はちょっとタイトでバランスも十分で、かなり洒落ている。けれどもポップすぎはせずに、ジャズらしさや少しのゴスペル色を含んだ飾り気のないものになっている。

 

 とてもいいEPではあるが、残念な点も存在する。ギターの音はほかの楽器たちに比べて少し劣るし(ほかの楽器たちが良すぎるのもあるが)、ラップの歌詞もほんの少し子どもっぽく感じるところがあった。1曲目はほかの4曲と全く違うファンキーな曲だったが正直VulfpeckっぽすぎてVulfpeckの曲と言われたらすぐに信じるレベルだったし、一番残念なことに全部の曲が印象に残りづらかった。けれどもいい曲ばかりなので何度も聴くことに抵抗は全くないし、"In the Morning"はとんでもない名曲で何度もリピートして聴いている。

 

 全体的にみると、とてもよいEPであり何度聴いても楽しめるだろうとは思うがそれだけに残念な点がいくつかあったことが悔やまれる。けれども一聴する価値はあるだろう。"In the Morning"を聴いてみて、気に入ったらすべて聴くことをおすすめする。8/10だ。

 

スコット執筆