Public Image Limited "Public Image (First Issue)" レビュー

 PILのデビューアルバムは怒りと葛藤とで塗られた、いい意味でも悪い意味でも聴く拷問のようなアルバムだ。

 

 このアルバムを最初に聴いたときには最悪のアルバムだと思った。ロットンの怒りに満ちた声が、音が重なり合いノイズの域にまで達しそうな楽器たちに乗せて自分をずっと叱責するように聴こえて、聴いた後に死にたくなった。けれども再聴して気が付いたのは、それこそがこのアルバムの強みであるということだった。

 

 "Theme"のノイズを発し続けるギターや"Religion II"のピアノの弦を掻き鳴らしたような音と無機質にリズムを刻むベース、そしてエフェクトのかかったダブインスパイアのドラムは人を不安にさせる。そこに加わるロットンの、理性を保ちながらも感情を爆発させていような独特なボーカルスタイルで、このアルバムの音はドロドロとしたものになっている。パンクというよりかはSuicideやVelvet Underground、そしてJoy Divisionなど、ゴスへの影響の強いバンドのような音になっているように思う。

 

 しかしそれもそのはずだ。ロットンの歌詞では宗教や一般人の持つイメージなどへの怒りが、ウィットに富んでいながらも直球な歌詞で表現されている。その怒りが音楽面でも表されているのだ。人に怒りをぶつけ、不安を呼び起こすことをとてもよくできているアルバムであると思う。

 

 またこのアルバムは感情任せのものではない。全ての楽器やミックスのチョイスは精巧に組み立てられているし、特にどの曲においてもベースラインは素晴らしいものになっている。「カッとなってやった」感の強いパンクロックに対しロットンの音楽は用意周到な「計画的犯行」であり、それが楽曲をよりよいものにしているだろう。

 

 けれどもこのアルバムは完璧ではないと思う。"Religion II"でギターなどのチャンネルが変わるのは正直いらなかったし、"Fodderstompf"のボーカルはジョークソングみたいだった。またテーマは変わっているものの全体的に(特にB面において)変化に欠けたかなとも思った。

 

 少し残念な点もあったがこのアルバムはとてもいいものだと思う。全体的によく作られていたし、曲それぞれも印象に残りやすいものになっていた。ロットンのパンクからの脱却という点でも重要なアルバムであるし、PILを含めてごく少数しか到達できなかった、パンクを超越した不穏なサウンドを持ったアルバムでもある。上で評価した点は聴く人によっては嫌いな点になってしまうかもしれないので全員におすすめはできないが、聴いた時の衝撃は経験してもらいたい。このアルバムは8/10だ