Pharaoh Sanders "Wisdom Through Music" レビュー

 1973年の"Wisdom Through Music"は喜びと希望に満ち溢れた音が、美しくそして力強く奏でられるアルバムだ。

 

 このアルバムでまず語っておきたいのはボーカルについてだ。5曲中3曲にボーカルが収録されていて("The Golden Lamp"にも正確にはボーカルが入っているのだが)、その3曲すべてで1文やチャントのような声を繰り返すだけとなっている。しかしそれらすべてにおいて歌声は力強く活き活きとした、インドやアフリカの民族音楽のようなものになっているし、繰り返しを続けていくことによって神秘的にも思えてくる。ボーカル面では"Love is Everywhere"のコールアンドレスポンスのようなものが特によかった。

 

 演奏はルーズさとタイトさが気持ちよく混ざり合っているように思えた。すべての楽器、特にリズム隊の音は繊細で、とてもよく構成されていた。けれども何時間も頭を抱えて考え抜いたタイトさだとは、聴いても思わないだろう。このアルバム、特にボーカル入りの3曲では楽器を演奏している人が演奏を心から楽しんでいるような音がするからだ。だからこそ心地よいルーズさがうまれてこのアルバムの音をよいものにしているのだと思う。その一番の例は"High Life"のサックスソロであろう。スムーズとは絶対に言えない音であるが、歓喜の叫びのような音からは胸いっぱいの楽しさが伝わってくる。けれどもそこには無意識的なタイトさも感じられ、それによって限りなく気持ちいいものに仕上がっている。

 

 先ほどからボーカル入りの3曲しか取り上げていないのは、残りの2曲がそれと少し違う路線だからだ。ボーカル入りの曲がアップテンポでノリのいいものであるのに対し、インスト曲は静かで幻想的だ。アンビエントとは呼べないだろうがとても落ち着く音楽となっているし、神秘的で美しい。とてもいいものになっている。

 

 アルバム全体としては、繰り返しを中心とした曲がすべてであるものの、どれも展開をしたりして変化があるため、長いと思うことや途中で飽きることはまずなかった。ミックスや楽器の音も素晴らしいし、やはり何よりも楽器の音が楽しさで輝いているように思えるところがこのアルバム最大の長所だと思う。

 

 すこし残念な点は、"High Life"の打楽器ソロはそこまで必要なかったかなと思うし、"Wisdom Through Music"の最初の1分は短くできたかなというくらいだった。しかしこれらはアルバム全体としてみればほんのわずかな点であり、聴いて確実に楽しめるアルバムであると思う。ぜひおすすめしたい。9/10だ。

 

スコット執筆