Blarf "Cease & Desist" レビュー

 謎のアーティストBlarfのデビューアルバムは攻撃的かつコミカルでありながらも、サンプルを基盤にした音楽の新たな境地を見せてくれるアルバムだ。

 

 このアルバムは全く真面目なものではない。それは一曲目の"Badass Bullshit Benjamin Buttons Butthole Assassin"というふざけたタイトルと、開始7秒目で流れるマリオのサンプルからもわかるだろう。曲の構成はめちゃくちゃで、いきなり遅くなったり新しいパートに入ったりするし、アルバム自体も短い曲と長い曲が混在していてまとまりのかけらもない。サンプルが9割以上、もしかすると全編サンプルかもしれないこのアルバムのサンプルたちは、クラシックからコメディ、ラップにロックと、こちらもまとまりが完全に欠如している。

 

 けれども音楽スタイルは、意外にも統一性がある。"Banana"や"Boom Ba"はドラムブレイクの上に組み立てられているし、いくつかの曲にはラップのヴァース自体がサンプリングされており、ほかの曲でもヒップホップの影響やそれらしさが見受けられる。けれども全体的にリミッターの外れたような音楽になっており、ヒップホップというジャンルには収まらない、というよりも既存の音楽としては収まらないようなものになっている。

 

 コミカルさも一般的なものではない。"Weird Al" Yankovicみたいな面白おかしい感じではなく、曲のアホみたいな構成や突然入ってくるサンプルでちょっとクスッとなってしまうものである。"I Worship Satan"で10分間湾岸戦争の激戦区みたいなノイズを気化された後にクラシック風の音楽がいきなり流れ、そのあとこれまた唐突に子ども向け番組のテーマが流れ始めるのには笑ってしまった。自分がまるでこのアルバムに馬鹿にされているような気もしてくる、おもしろいアルバムだと思う。

 

 しかし音楽だけをみてみるとかなりレベルの高いものになっている。サンプルはすべて緻密に組み合わせられているし、曲自体の音もかなりいいものだ。またすべての曲において印象に残るパートやサウンドが少なくとも1つはあるのも、かなりいい点だと思った。このような大胆で精巧で攻撃的でユニークなサウンドはサンプリング中心の音楽の終着点にも思う。

 

 残念な点としては"I Worship Satan"が長すぎることと、最初に聴いたときの衝撃があまり長続きしないことだろう。また全体的に面白くいいアルバムだけれども、名盤という感じではない。絶対に一度は聴くべきアルバムであるが、革新性とユニークさだけが先走り、音楽性が少し置いてけぼりにされたアルバムのようにも思う。7/10だ。