Tom Scott With The California Dreamers "The Honeysuckle Breeze" レビュー

 サックス奏者Tom Scottのデビューアルバムは良くも悪くも60年代感溢れる、スムーズなジャズアルバムだ。

 

 このアルバムの評価はかなり難しい。というのもほとんどの楽曲がカバーだからだ。しかし確実に伝わってくるのはTom Scottの演奏能力の高さだろう。若々しいポップさを持ちながらも、大人らしい滑らかな、しっかりとしたジャズの基盤があることがすべての曲から感じられる。彼作曲の"Blues for Hari"でそれはよく分かるだろう。

 

 シタールを盛り込んだアレンジもおもしろいと思った。特に"The Honeysuckle Breeze"ではサックスの音色によくマッチしていたし、アルバム全体を通してはタブラのような打楽器の音もするなど、かなりサイケな色合いを持ったアルバムになっている。

 

 コーラスグループのThe California Dreamersもかなりいい味を出している。アルバム全体をポップな音にしているし、溶けるようなコーラスは60年代らしさ満載でとてもいい。ボーカルを中心とした"Never My Love"は彼らの技術の高さの一番のショーケースとなっている。

 

 けれどもこのアルバム一番の問題点もThe California Dreamersであると思う。技術面で問題はないのだが、"Today"や"Deliver Me"では少し鼻につくというか安っぽい感じもしたし、正直アルバム全体を60年代の遺物にしている感も否めない。アルバム自体はいいのだが、たまにイトーヨーカドーで流れている感じの音楽に聴こえてしまうのだ。

 

 他にも、"North"ではシタールとサックスの音がかなり合っていなかったように聴こえたし、カバーも"Mellow Yellow"や"She's Leaving Home"はパロディかと思うくらい出来が悪い。特に"She's Leaving Home"ではサックスの音を間違えたように聴こえる箇所もあったし、最初のハープシコードもミスマッチだったと思う。

 

 しかしこのアルバムの最大の強みはTom Scottのサックスの演奏であり、全体を通してとてもいいものになっている。彼以外の点によくないことが多いのが悔やまれるが、それでもかなり楽しめるアルバムだったと思う。いい曲も多かったので、もし60年代チックな明るいジャズを聴きたい気分であれば、このアルバムが最適だろう。7/10だ。