Justice "†" レビュー

 このアルバムはジャンルの垣根を越える実験的な音とポップなメロディを兼ね備えた唯一無二の名盤だ

 

 このアルバムはジャンルに縛られない。もちろん根底にあるのはダンス/エレクトロであるし、当時のクラブシーンを反映したサウンドでもあるが、聴いてみればそれだけでないことはわかるはずだ。"D.A.N.C.E"の子どものコーラス隊や"Let There Be Light"のメタル的とも言えるドラムなど、様々なジャンルの香りがするが、全体的にユニークであるのはクラシック音楽の影響が強いような音になっていることである。"Stress"の緊迫感のあるストリングスや"Waters Of Nazareth"のビッグであたかもティンパニのようなバスドラムと後半のパイプオルガンソロなどは、このアルバムに壮大な雰囲気を与えている。

 

 壮大さはそれだけではない。エフェクトを大量にかけ歪められた音たちが大音量で奏でられていくのには圧巻せざるを得ないだろう。その音たちは1つ1つがユニークであり実験的である。"Genesis"や"Newjack"はそれをよく表す曲であろう。特にドラムとベースは最上級のものだ。"Phantom"の現実では不可能な最高のスネアや"Newjack"と"DVNO"でもっとも顕著なJohn Entwistle並みの暴力的かつファンキーなベースは、ただすごいとしか言いようがない。

 

 音が実験的でありながら、メロディはポップであることも素晴らしい。Michael Jacksonへのトリビュートソング"D.A.N.C.E"から、サイレン音のようなものを響かせる"Stress"に至るまで、全てにキャッチーで最高のメロディが含まれている。アルバム全体がポップへの愛に溢れているようである。特に"Phantom Pt II"や"Tthhee Ppaarrttyy"のメロディは最高だし、後者はこの世でもトップクラスのクラブソングだ。

 

 そのポップでキャッチーな点が、このアルバム最大の強みだろう。誰が聴いても楽しめる音楽になっているのである。けれどもやはり実験的であるし、リリースから10年以上経った今でも、かなり新鮮な音である。踊りながらでも車に乗りながらでも、家で1人じっくりしながらでも聴くことができるアルバムである。

 

 アルバム全体の構成も曲自体の構成も、静と動をうまく使ったものになっているし、曲たちがシームレスにつながっていくのも最高だと思う。このアルバムには文句は言えない。ぜひ聴いてみていただきたい。10/10だ。

 

スコット執筆