ビートルズ最後の曲を聴いてみて

The Beatles' Final Song “Now and Then” Announced | Pitchfork

 出ましたねとうとう!アンソロジー期から存在が噂されていた「ビートルズの」Now and Then! いやあビートルズのロストメディアの一つだったのにまさか日の目を見るとは・・・。感慨深いですねぇ。しかも歌詞が「今もこれからも/君がいないことを哀しく思う/今もこれからも/君にそこに居てほしい」みたいな感じで!お涙ドバドバ!ジョンがいなくなって、それから十数年後彼のデモテープに残った3人で音を付けて、そのあとジョージが亡くなって24年くらい経ってまた戻って完成させて・・・。いい話~!

 

・・・って言いたいんです。言いたいんですよ。実際僕は嬉しかった。「ビートルズ」はもう終わって、あとはアウトテイクや没曲に新しいものを見出し、リマスターにまた驚かされる、そうだと思ってたんですよこれからはずっと。けどそうじゃなくて、それが嬉しかった。ジョンだけじゃなくジョージもちゃんといるのも、しっかり「ビートルズ」なんだなって思えて、嬉しかった。けど、けれども、何かが足りない、何かが違う気がしてしまうんです。ビートルズだけど、ビートルズじゃない感じ。これはなんなんでしょう?それをこの記事では、ちょっとずつ考えていきます。

 

 最初聴いた印象は、実はあんまり良くなかったんです。なんかジョンのソロ曲って感じがどうしてもしちゃった。あんまりポール、リンゴ、ジョージのインプットが無い感じ。アンソロジーシリーズのために新録されたReal LoveやFree as a Birdは、ちょっとモダンになっていても、ビートルズって感じがしたし、どっちもにあったハーモニーも、ありはするけど弱すぎる感じ。しかもなんかキャッチーさもあんまないし、ビートルズっぽい斬新さもあんまり感じなかったんです。

 

 けど、何回か聴いていくとそれも変わっちゃった。ああ、ビートルズだなって思っちゃった。違和感の原因も分かったんです。それは「ビートルズの新しい音楽」だったんですよ。僕は今までずっと、ビートルズ大好き人間でした。これからもそうです。いろんな曲も聴いてきて、彼らのいろんなスタイルに触れてきた、それが違和感の原因だったんです。今まで「ビートルズの音楽はこういうものだ」と思ってきた、けどNow and ThenはTwist and ShoutでもFrom Me to YouでもThink for YourselfでもTomorrow Never KnowsでもI am the Walrusでもなかった。Sgt. PeppersでもLet it beでもAbbey RoadでもYellow Submarineでもなかった。Free as a BirdやReal Loveですらなかった!だからなんです。だから違和感を感じたんです。Now and Thenは「新しいビートルズ」なんです。それはただ新曲だからってことじゃない。この曲は1970年にビートルズが解散したときのものでも、1980年にジョンが死んだときのものでも、1995年にジョージ、ポール、リンゴが3人で録音しようとしたときのものでも、2001年にジョージが死んだときのものでもない。2023年の中で生まれた新しいサウンドなんだと思います。だから違和感があった。今まで触れたことのないビートルズだったからなんです。

 

 もう自分は、Now and Thenを受け入れました。ビートルズの曲だと受け入れました。もう、ジョンの声にポールが声を重ねることも、リンゴがシンプルながら味のあるドラムをのせることも、ジョージがブルースに学んだギターリックを弾いてみせるのも、これから起こらないってことも、受け入れました。「ビートルズ最後の曲」、こんな重要な任務を、Now and Thenは全うできたと思います。

 

 ビートルズの歴史はこれからも続いていくでしょう。まだデラックス商法も続いて、リマスター商法も続いて、アップルtvかなんかでドキュメンタリーが出て・・・こんな調子で続いていくでしょう。けどこれでバンドは、本当におしまいなんでしょうね。なんどもビートルズは彼らの長くて豊富な歴史にピリオドを打ってきました。けどそれも、もう終わりなんでしょう。これで、おしまい。この曲で、おしまい。もう、なにかが書き加えられることがないのは、少し悲しい気がします。そう考えると、Now and Thenはいいピリオドじゃないでしょうか。「今もこれからも/君がいないことを哀しく思う/今もこれからも/君にそこに居てほしい」、なんて気の利いたことを最後に言いやがって。そんなことを思いながら僕は、目に涙を浮かばせていました。