細野晴臣 "S・F・X" レビュー 

https://music.apple.com/jp/album/s-f-x-ep/334643302

 


 Yellow Magic Orchestra (YMO)の散開が1983年。その翌年1984年、多くのYMOファンとテクノ好きの期待されながらのリリースとなった本作。その期待を良い意味でも悪い意味でも裏切った作品だろう。YMOという束縛から解放された細野が、本当にやりたかったテクノがここに詰まっている。

 

 YMOでの音楽は非常にキャッチーだった。ファーストアルバムでは細野の色が濃く出ている。しかし、その後のS.S.S.や増殖などを聴くと分かる通り、庶民 に受け入れられやすい音楽になってしまった。テクノポップやシンセロックと呼ばれる新たな道を切り開いたのは、確かに素晴らしいことではあるが。本作では一度原点に帰り帰り、細野が自身の音楽を見つめ直し再構築している。これぞ本当のジャパニーズテクノと言える作品である。

 

 当時のシンセサイザーや録音機材の進化は目覚ましく、YMO散開から1年の間にも電子楽器界に大きな革命があった。それはFM音源の登場だ。感の良い方ならもうお分かりだろう。伝説の名機YAMAHA DX7である。DX7が発売されたのは1983年、YMOの時期と重なっているが使用はされなかった。本作は細野が自身のアルバムにおいて本格的にDX7を使用し始めた、最初のアルバムということになるだろう。FM音源特有ののきらびやかなサウンドを堪能できる。

 

 本作はサンプリングの教科書と呼べるほど、洗練されたサンプリングを聴くことができる。DTMをしている方にぜひ勧めたいアルバムのひとつだ。特にコンピューターミュージックを作りたい方は聴くべきだろう。ピアノをメインにした静かな曲も収録されているのも、重要なポイントだ。細野流の新たな電子音楽の幅広い顔を見ることができる。

 

 YMO時代にはできなかった本当にやりたい電子音楽がここに詰まっている。正直なところ、サンプリングの使いこなしはYMOを超え、当時の世界No.1だと思っている。卓越したシンセの使いこなしと独自の感性による作曲は、唯一無二の世界観を生み出した。本音を言えば、テクノが苦手な方やこれから聴いてみようと思ってる方には向いていないかもしれない。一番聴いてもらいたい層は、YMOに物足りなさを感じてきている方々だ。ぜひこのディープな世界観に浸ってもらいたい。間違いなく10点満点中10点の素晴らしいアルバムだ。これを聴いたあなたに、新たな世界を見せてくれるだろう。

 

 

Ryogoku