はっぴいえんど "THE HAPPY END" レビュー      

 

 1985年6月15日、はっぴいえんど一夜限りの再結成ライブ。当時メンバー4人それぞれがミュージシャン、作詞家、作曲家として成功しており、多くの期待を背負ってのライブだった。その音源がこのアルバムに収められている。

 

 1985年9月5日リリース。はっぴいえんどとしては2枚目のライブ・アルバムとなる。A面は3曲のメドレーでB面は1曲、収録されている曲は少ない。そのため、レコードでは45回転となっている。アルバムとして売り出してはいるが、12インチシングルとほぼ同じである。

 

 曲の内容は、かなり斬新なものだ。正直多くの人が想像するはっぴいえんどとは別物である。リズムマシンシンセサイザーによる電子音が強調され、あのバンドサウンドは消えてしまっている。名前だけ同じの全く別物のバンドと言っても良いだろう。こうなってしまった背景には、細野晴臣氏と大滝詠一氏の音楽性が大きく関わっている。このライブが開催されたのが1985年。細野氏は2年前までYMOとして活動しており、前年にはシンセサイザーを駆使した名盤"S・F・X"を発表したばかりだ。当時とてつもない人気を誇っていた細野氏の影響はこのアルバムにも及んでいる。そして大滝氏はナイアガラで大成功を収めた直後である。本作品の歌声はナイアガラそのものである。とてもはっぴいえんどとは言い難いものになっている。

 

 と、ここまでは70年代のはっぴいえんどのファンとしての感想だ。この再結成が全く別のバンドとして考えると、話は大きく変わってくる。

 "12月の雨の日"ではリズムマシン松本隆氏のシンプルなドラムがよく合っている。シモンズドラムの音はYMOの散会ライブを思い起こさせる、深く突き抜けるサウンドが気持ち良い。細野氏のベースはファンキーさを感じられるベースラインで、これはYMO時代に海外から影響を受けたものだろう。控えめではあるが欲しいところにしっかりと来てくれる絶妙さは変わらず、最高のグルーヴを生み出している。

 A面は3曲のメドレーとなっており、それぞれの曲で鈴木茂氏のギターソロを堪能できる。さらに深みの増した演奏とサウンド(ギターはES-335だろうか?)がたまらない。

 

 ここまで褒めてはきたが、正直なところ演奏の完成度としては微妙である。厳しい意見かもしれないが、あらゆる先入観を捨て一度聴き直してみてほしい。

 電子音を多用することによってタイトなリズムとスタイリッシュなサウンドを得てはいるが、その代償は大きかった。全体の音のバランスが崩れ、バンドサウンド特有の音の分厚さが無くなりペラペラ、薄っぺらい。ライブの音源なので仕方ない部分もあるが少し残念だ。

 

 1985年。往年のロックを電子音で料理したこのライブは、来たるべきシンセミュージック時代を感じさせる。日本のポップ界において重要なものだったことは間違いない。しかし完成度としては少し残念なところも感じる。それも含め点数を付けるなら10点中8点だ。歴史的に価値のあるライブ音源をぜひ多くの人に聴いてもらいたい。

 

 

余談

このライブで細野氏が使用しているベースはヤマハのMB-1と言われているが、映像を注意深く見るとジャックの位置が違うように見える。私はMB-2なのではないかと思っているが、どうなのだろうか。

 

 

Ryogoku