Patricia Taxxon "The Flowers of Robert Mapplethorpe" レビュー

 このアルバムは、ドロドロと渦を巻く感情をアグレッシブかつメランコリックに表現した素晴らしいアルバムだ。

 

 このアルバムはいい意味でとても感情的だ。怒りや葛藤や喜びといったものが随所に表れているのは、このアルバムを一聴すればすぐにわかるだろう。曲中やアルバム内での感情の起伏も激しく、それにより一つ一つの思いが印象的かつ効果的に表現されているとも思える。しかしこのアルバム全体はどこか哀しく感傷的なものになっている。このアルバム全体に流れる、どこか寂しげのある雰囲気はとてもいいものだ。

 

 それを可能にしているのはPatricia Taxxonの作曲能力の高さであろう。"le lettre"のようにポップ感のある曲ではもちろんのこと、"centipede"のような攻撃的な曲でさえも繊細なメロディに満ち溢れている。メロディは曲それぞれにおいてユニークで、けれどもすべてに統一感がある。

 

 このアルバムは音も素晴らしい。"rawr"の鞭を打つようなスネアや"the railway"のKraftwerk感もするシンセ、"our father"の流れ星のようなピアノ/シンセなど、挙げ始めるときりがない。彼女の音作りの能力の高さをしっかりと理解できるはずだ。一つ一つの音が素晴らしいのだが、それらがすべて重なり合ったときにうるさく感じることがないのだ。むしろすべての音があまりにも美しく組み立てられていて、聴いていて気持ちいいものになっている。ボーカルも素晴らしい。曲の雰囲気に合わせて音は変幻自在に変化するし、感情のこもった歌もとてもいい。

 

 構成も一級だ。アルバムも曲自体もであるが、静けさとダイナミックさが良くミックスされ、飽きないものになっている。アルバムとしては、段々と哀しさが表面に出てくる構成となっているのもいいと思う。また、"le lettre"のメロディが"doggy"の最後にもう一度、感傷的な歌詞になって表れるのがとても好きだった。このアルバムの確実なハイライトだろう。曲は、特に"rawr"や"beast // creature"、"our father"での、ビルドアップが最高であった。

 

 細かい点であるが、サンプリングがかなりいい味を出していると思った。"rawr"でのN.E.R.D.リズム天国のサンプル、"i wish"のうごくメモ帳のサンプルは、ユニークである一方で、曲をよりよいものにしていると思う。

 

 問題点は少ない。"our father"や"doggy"において感情が溢れ声が音をあまり取れなくなっているようなところがあったし、"doggy"は全体的に長いかなとも思った。けれどもどちらも曲をより印象的なものにするためであるということは理解できるので、ただの自分の好みの話である。

 

 このアルバムは隠れた名盤であるし、正直自分が今まで聴いたアルバムの中でもトップクラスに入るものだ。ぜひ聴いてみてもらいたい。あまり小数点を付けたくはないのだが、9点では低すぎるので付けることにしよう。このアルバムは9.5/10だ。