相対性理論 "ハイファイ新書" レビュー
このアルバムはスムースなロックとダンサブルなリズム、そして電波的な歌詞の融合したユニークでありながら聴きやすくハマりやすいアルバムだ。
このアルバムの音は素晴らしい。「テレ東」におけるザ・スミスのジョニー・マーを思わせる流れるようなギター、「さわやか会社員」で聴ける緩急つけられバランスのとれたドラム、「品川ナンバー」のディスコ風のベースすべてが、際立ちそして輝くような音作りとなっている。このような素晴らしい音のアルバムを通しても、ギターは格別の良さだ。「地獄先生」のジングルジャングル的な音も「四角革命」において曲全体を引っ張っていくリズムも、優しく落ち着いたサウンドで奏でられている。特に「地獄先生」のソロは感動するくらいにいいものになっている。
けれどもアルバムの最大の強みは、ボーカルである。そよ風のような透き通った声は楽器に紛れることも潰されることもなく、強烈な存在感を保っている。このアルバムの音の良さはすでに褒めちぎったが、その音もこのボーカルがなければ無意味なものになっていただろう。そう思うくらいに、このボーカルはアルバム全体の音を包容し、統一感を持たせ、そしてさらに強力で味のあるものにしている。
アルバムの音と合わさることで、ボーカルの雰囲気もよりよくなっていると思う。ちょっぴりファンクで少しロックな音たちはボーカルにミステリアスな色を持たせ、そしてかなり甘い雰囲気を醸し出させている。もちろんボーカル周りの音作りも、かなりさりげないタッチではあるが、素晴らしいと思うところがある。「テレ東」や「さわやか会社員」での男性バックボーカルはとてもいいし、「四角革命」の終盤で声が二重のようになるところは唸ってしまうくらいの出来だ。
歌詞もこのアルバムのユニークさを際立たせている。「25世紀を夢見る私は宇宙開発を横目で見ながら/22世紀へ逃れたあなたに時空警察はとっても厳しい」(「四角革命」)や「私もうやめた世界征服やめた/今日のご飯考えるので精一杯」(「バーモント・キッス」)など、電波的で少し斜め上な歌詞になっている。ふざけたような歌詞ではあるが、このアルバムのすごいところはそんなことを微塵も感じさせないところだ。上記した声のミステリアスさは、これらの歌詞を正当化すると同時に、これらの歌詞によってその神秘性を強めているのである。特に「バーモント・キッス」の「恋の微熱37度5分/平熱36度2分」というところはシュールかつロマンチックで素晴らしいと思った。
歌詞にも統一感がある。それは恋というテーマである。生徒から先生への恋心や(「地獄先生」)時空を越えた恋(「四角革命」)などは曲全体がそうであるし、ほかの曲は「あなたが霊でも私はいいんだよ」(「ふしぎデカルト」)など、そのテーマを散りばめているようになっていてとてもおもしろいと思う。
しかしアルバム全体としてみると、欠点も存在する。「学級崩壊」と「ルネサンス」は他の曲に比べて歌詞も曲自体も少し劣るし、特に後者は歌詞がすこしウケ狙いのような気がしてほかの曲にあった良さがない。全体としてサウンドは統一感があるのだが、後半に行くにつれて少しマンネリ化して疲れてくることも、毎回ではないが何度か体験した。
けれどもこのアルバムはかなりいいアルバムであるし、ユニークさも音の良さも内容も、すべてがピカイチであると思う。ぜひおすすめしたいアルバムである。9/10だ。