さよならポニーテール "空も飛べるはず/ビアンカ/恋するスポーツ" レビュー
さよならポニーテールのメジャーデビューシングルには、夏っぽくて爽やかでどこか懐かしく甘酸っぱいという、グループのサウンドの特徴を存分に発揮させた4曲が詰まっている。
[A面:空も飛べるはず]
スピッツの同名曲のカバーであり、フジテレビ系列のアニメ「つり球」のエンディングにもなった曲である。アコースティックギターを基盤としながら、ベースやピアノ、オルガンにドラムまでもがあたかも踊っているかのような、メロディックな演奏をしていてとてもいい。2番からはエレキギターも前面に出てくるのだが、どれか一つの楽器が目立ちすぎているだとか、ミックスがうるさくなっている感じは全くせず、まとまりを保っている。特にギターソロのあたりは素晴らしく、大変よく音が構成されていることが感じられる。
けれどもこのカバーによって加えられた最大で最高のタッチは、声の重なりであろう。イントロのハミングから始まり、ヴァース中でも躊躇なく歌う声の変わっていき、あるところでは重なりあるところでは個別の声だけになるのは、ユニークでありながらとても綺麗に施されており、独特な雰囲気を醸し出している。オリジナルに匹敵するくらいの出来であると思う。もしさよならポニーテールがどのようなグループかを代表する曲があるとすればこれであろう。
[A面:ビアンカ]
こちらは「空も飛べるはず」よりもロック調な曲であり、同名の雑誌とのタイアップ曲にもなった曲だ。アップテンポな曲調に心地よい歪み具合のギター、そして原動力とも言えるオルガンは、いわゆる邦ロックらしさを残しながらもビーチ・ボーイズなどのクラシックロック色も残しているようで新鮮かつ親しみを持ちやすい音になっている。かなりキャッチーなギターリフと途中で入る手拍子が個人的には大好きな曲だ。この曲もやはり声の重ね方やそれぞれの声の使い方がとても上手であり、特にブリッジ部はこの曲の明らかなハイライトである。
けれども完璧とまでは言えない。イントロではギターの音が必要以上に存在するし、ドラムの音は悪くはないが良くもない。そしてオルガンはちょっと遊びがありすぎて、まとまりがないようにも感じてしまう。しかし普通に聴く分には気にはならないレベルなので、それがあるから最悪だとはならないことは注意してほしい。
[A面:恋するスポーツ]
まさかのトリプルA面です。前の2曲とは違って少しエレクトロポップ風の曲で、ちょっぴりグリッチーなピアノの音がとても素晴らしいものになっている。コーラスはリバーブを大量に含んで声としてよりも曲の音を深める楽器のような役割をこの曲では担っているようにも思えるし、途中から入ってくるシンセと共にこの曲の甘い雰囲気を増幅させている。途中のドラムブレイク的なパートもとてもよく、かなりポップでキャッチーな曲になっている。そこまで気になる点もなく、かなりいいJポップソングだと思う。
[B面:虹の橋]
これまでの曲とはこれも全く違い、アコギメインのどこかセンチメンタルな曲になっている。ここでもやはり重なる声が独特な雰囲気を醸し出しているし、ゆっくりしたどこか寂しげな空気感は少しノスタルジックにも感じるような、そんな曲である。正直そこまで特筆すべきことはなく、いい曲なのだが少し単調な感じもして、いいB面曲ではあるがA面にはなれない曲を体現したような曲であると思う。最後にその単調さを破るのだが、そこは素晴らしい出来であるし、そこがあるから複数回聴こうと思える曲である。
[総評]
ジャンルやスタイルは全部バラバラなのだが全体的には出来も音もかなりよく、さよならポニーテールの強みを濃縮したかのような4曲が集まっている感じがした。完璧とまでは言えないけれども至る所で光るものを存分に発揮しており素晴らしいものに仕上がっている。ぜひ聴いてもらいたい。9/10だ。